「センサーを付けたのに、波形が読めない」——スマート保安時代の“前提工事”

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IoTセンサー、遠隔監視、AIによる異常検知。設備保全の世界では「スマート化」という言葉を聞かない日はありません。国も電気保安の分野で「スマート保安アクションプラン」を掲げ、新しい技術の導入を後押ししています。

ところが現場からは、こんな声が聞こえてきます。「センサーは付けた。でも、出てきた波形の意味が分かる人がいない」。本記事では、スマート保安アクションプランの概要を整理したうえで、この“見落とされがちな課題”と、その解決の第一歩をご紹介します。

スマート保安アクションプランとは

「電気保安分野 スマート保安アクションプラン」は、経済産業省のスマート保安官民協議会(電力安全部会)が2021年4月30日に公表した、電気保安分野で初めてのスマート保安の行動計画です。

「スマート保安」とは、IoT・AI・ドローン・センサーなどの新技術を活用して、電気設備の安全を守る仕組みを高度化・効率化する取り組みのこと。アクションプランでは2025年を最初の目標年に置き、官民が連携して技術開発や制度見直しを進めるロードマップが示されました。

電気保安が抱える3つの課題

なぜ今、保安のスマート化が求められているのでしょうか。背景には、次のような構造的な課題があります。

① 設備の高経年化

高度経済成長期以降に整備された受変電設備や工場設備の多くが更新時期を迎えています。古い設備ほど故障リスクは高まり、点検の重要性は増すばかりです。

② 保安人材の高齢化と不足

設備を守る電気主任技術者や保全担当者の高齢化が進み、ベテランの引退に対して若手の供給が追いついていません。「点検すべき設備は増えるのに、点検できる人は減る」というギャップが広がっています。

③ 再エネ設備の増加と災害の激甚化

太陽光発電などの再生可能エネルギー設備が急増し、保安の対象そのものが拡大しています。加えて、台風や豪雨など自然災害の激甚化により、迅速な状況把握と復旧も求められています。

どのように解決しようとしているのか

アクションプランでは、これらの課題を「技術で補う」方向性が示されています。重点分野として挙げられたのは、次の5つの技術領域です。

  1. ロボット・ドローンによる点検
  2. センサー・カメラによる監視の高度化
  3. データの常時伝送による遠隔監視
  4. 異常検知・予兆把握(状態基準保全=CBM)
  5. 作業者の安全を支えるウェアラブル機器

特に注目したいのが4つ目の「異常検知・予兆把握」です。これは、あらかじめ決めた周期で点検・交換する「時間基準保全(TBM)」から、設備の状態データを見て必要なタイミングで手を打つ「状態基準保全(CBM)」、いわゆる予知保全への転換を意味します。

また、完璧な技術を待つのではなく、「技術的に可能なものから社会実装を進める」という姿勢が打ち出されている点も特徴です。つまり、スマート保安は“いつか来る未来”ではなく、すでに現場で始まっている変化なのです。

見落とされがちな落とし穴——「データを読む人」がいない

ここで一つ、大きな問題があります。センサーやAIは「異常の兆し」を知らせてはくれますが、「なぜそうなったのか」「どう対処すべきか」までは判断してくれません。

  • 電流値がじわじわ上がっている。これは負荷の増加か、絶縁の劣化か。
  • 振動波形に特定の周波数成分が現れた。軸受の摩耗か、芯ずれか、ベルトの緩みか。
  • アラームが出て設備が止まった。原因はセンサーか、リレーか、制御回路のどこか。

こうした判断には、電気・機械・制御の基礎知識が欠かせません。基礎がないまま高価な監視システムを導入すると、アラームが鳴るたびにメーカーを呼ぶ、あるいはアラームそのものを無視するようになる——そんな「宝の持ち腐れ」が起こりかねません。

設備がスマート化しても、それを運用する人の知識がスマート化していなければ、予知保全は機能しないのです。

これは現場の肌感覚だけの話ではありません。経済産業省・厚生労働省・文部科学省がまとめた「2026年版ものづくり白書」でも、同じ構図が数字で示されています。製造プロセス全体を横断してデータを連携・活用できている企業は3%弱にとどまり、AI活用にあたっての課題では「知識・ノウハウの取得」が57.2%で最多、「導入に必要な人材確保」が47.9%で続きます。

つまり、センサーやAIの導入を阻んでいるのは技術そのものではなく、それを使いこなす人の知識と人材です。スマート保安が思うように進まない理由も、まさにここにあります。

予知保全導入の“前提工事”としての基礎教育

建物を建てる前に基礎工事が必要なように、予知保全を導入する前には「人の基礎工事」が必要です。スタートエンジニアでは、その土台となる3つの主力コースをご用意しています。

電気基礎——電流・電圧の数値が「意味」に変わる

オームの法則、交流と直流、電力と力率、絶縁と接地。こうした基礎を押さえることで、監視画面に表示される電流値や電圧値、絶縁抵抗の変化が「何を示しているのか」を読み解けるようになります。遠隔監視で届く数値を、現場の判断につなげるための第一歩です。

機械基礎——振動や温度の変化から原因を推測できる

軸受・歯車・ベルトなどの機械要素、潤滑、摩耗や疲労のメカニズム。機械の仕組みを理解していれば、振動センサーや温度センサーが示す変化から「どの部品が、どう傷んでいるのか」を推測できます。予知保全の中心となる状態監視データを活かすには不可欠な知識です。

シーケンス制御——止まった設備の「どこ」が悪いのかを追える

リレー回路、ラダー図、センサーと出力機器の関係。設備を動かしている制御の流れが分かれば、異常停止の原因を回路図から論理的にたどれるようになります。センサー自体の故障なのか、制御側の問題なのかを切り分けられることは、スマート化された設備ほど重要になります。

まとめ——スマート保安は「人」から始まる

スマート保安アクションプランが示すように、電気保安の世界は技術の力で大きく変わろうとしています。しかし、その技術を価値に変えるのは、データの意味を理解し、判断し、行動できる「人」です。

センサーを付ける前に、あるいは付けた今だからこそ、現場を支える方々の基礎力を見直してみませんか。電気基礎・機械基礎・シーケンス制御は、予知保全を成功させるための“前提工事”です。スタートエンジニアの研修で、スマート保安時代に通用する技術者を育てていきましょう。


※本記事は、経済産業省「電気保安分野 スマート保安アクションプラン」(2021年4月)、経済産業省・厚生労働省・文部科学省「2026年版ものづくり白書」(2026年5月)および関連報道をもとにしています。

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